ROK-SEY
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「第24回 NAIMAを聴いてみよう」
世の中には『余計なお世話』と言う言葉がある。言う方も言われる方もなんとも世知辛い言葉ではあるように感じるが、この『余計なお世話』にも幾つかのパターンがある。
 まず、A「な、なんだよ。そんなの余計なお世話だし」B「おいおい。水臭いぜ、おまえ!」A「へへっ。恩に着るぜ!」というこっ恥ずかしいパターン。この場合はいわゆる一種の遠慮から発せられる言葉であり、俗に言うツンデレ属性だ。万事問題なし。むしろ微笑ましい。ちなみにツンデレは英語圏でもそれなりのスモール・サークルの人に対しては「TSUNDERE」で通じるので覚えておいても良い。もちろん覚えておかなくても良い。そして、世知辛さが滲み出るのがそれが一方通行になった際に出てくる言葉『余計なお世話』だ。Aに対しての行為、思惟が、Bにとって受け入れられなかった場合、これはAとBのどちらに問題があるか、もしくは無いか、これには濃淡のさまざまなケースが想定し得る。心からの慈愛と労わりからくる振る舞いか、はたまた侮蔑的在慮が含まれているかなど、この場合はその濃淡を別としても結果として現れた現象が受け取り手が感じる『余計なお世話』であって、それはどこか擦れ違いから生み出された哀しいもののようにも思われる。そしてもうひとつ、この『余計なお世話』の行為者が、ワイドショーのレポーターの如く、あきらかに出歯亀根性から来るものの場合だ。誰からみても『余計なお世話』。しかしながらワイドショーを低俗なものとしつつ、いつの時代も低俗であったワイドショーが今日も一定の需要の元にしっかりと放映されている。ゴシップ大好き井戸端奥様でなくとも、そして我こそは聖人君主という方は別としても、気づけば少なからずファリサイ派の人々のようにそこに対して石を投げるを戸惑うのではないか。余談だが、自分の主張一点張りで石を投げる人が多い中、石を投げるのを躊躇ったファリサイ派の人々もそれはそれで立派だ。とも思う。

 さて、今回は「NAIMA」です。これは曲名です。だれの曲か?JOHN COLTRANEです。「ナイマ」「ナイーマ」「ネイマ」等々と呼ばれていますが「ナイマ」で良いんじゃないでしょうか。「コードはAbとBbの持続低音持っていると言う点でトレーンのモード手法への関心が伺われる」と説明借用。この曲の初出はCOLTRANEがMILES DAVIESの「KIND OF BLUE」の録音直後にATLANTICに1959年に吹き込んだアルバム「GIANT STEPS」。このアルバムに収録の表題曲「GIANT STEPS」はCOLTRANEの「シーツ・オブ・サウンド」という吹きまくりのスタイルと和音を分割して凄い勢いで展開していく曲、ですので「敷き詰められた音」=「シーツ・オブ・サウンド」というわけですが、初録音時にCOLTRANE以外は理解出来ずに誰も付いていけなかった。すっげー。という中二心を擽られるエピソード。そして、このアルバムに収録されているバラードが「NAIMA」です。今までのCOLTRANEのスタイルを究極的に極めたのが「GIANT STEPS」であるならば、当時の奥様の名前を冠したこの愛のバラード「NAIMA」は、これからのCOLTRANEのモードへと移行するネクスト・ステップを示唆する曲と言えるかもしれません(えーと。言えないかもしれません)。COLTRANEの「泣き」という面では最たる一曲。そして、その後のスタイルにおいて「泣き」は「叫び」に変っていくのですが。ちなみに英語だとどちらも「CRY」です。すみません、思っただけです。

 そして、COLTRANEはナイマとは別の人生と歩むこととなり、黄金カルテット解散後の65年から自身のバンドに参加していたALICEと67年に再婚します。その後もCOLTRANEは幾つかの「NAIMA」を録音します。殆どはライヴ録音になります。初出以降のCOLTRANEによるスタジオ録音の「NAIMA」ってありましたっけ。常にCOLTRANEバンドのレパートリーとしてあり続けた名曲「NAIMA」。もちろん後妻であるALICE在籍時にも幾度と無くプレイされています。そこで鎌首を擡げてやって来るのが『余計なお世話』。ALICEはどんな気持ちで「NAIMA」をプレイしたのだろうか。とか。もちろんALICEはプロとして演りきっています。なので、その背景は語るだけ野暮。ほんとの『余計なお世話』。
 再婚後すぐにJOHNは亡くなります。JOHNが当事気に入っていたというハープをALICE COLTRANEの為に購入したものの、そのハープが届いた際には既にJOHNは他界した後だったそうです。JOHNの死後はALICEはピアニストとしてだけでなく、ハープ奏者としても活動を行っていきます。

 今回はその「NAIMA」のカヴァー曲を並べてみました。ひたすら挙げていけばキリなく、最初は2回に分けようかとも思ったのですけれども、基本的には原曲に準した愛あるカヴァーが多い為、幾つかに絞ってみました。過ぎたるは及ばざるが如し。ではあるかもしれませんが『余計なお世話』は嫌いではありませんよ。「世の中に人の来るこそうるさけれ とは言ふもののお前ではなし」。ツンデレ狂歌。




LES DOUBLE SIX OF PARIS / NAIMA (SWINGIN' SWINGIN - 1962 PHILIPS)

個人的には自宅発掘で盲点かつ一番良かったのがLES DOUBLE SIX OF PARISの「NAIMA」。ピアノはGEROGES ARVANITAS、アレンジはメンバーのMINI PERIN。フランス語でしっとりと歌われます。かなりいいです。ひょっとして「NAIMA」のヴォーカル・カヴァーってこれが初出ですかね。
JOHN COLTRANE / NAIMA (LIVE AT VILLAGE VANGUARD AGAIN - 1966 IMPULSE)

このアルバム、恐れを知らずにイノセントな目で言わせて頂くと「これ、COLTRANEいなくてもよくね?」と少しなってしまいます。テーマは流石の吹きっぷりですが黄金カルテット解散後、この「NAIMA」でより世界観を出しているのは既にアチラ側のPHAROAH的なサウンドなのかな、と。
MAURIZIO LAMA / NAIMA (LA MUSICA DE MAURIZIO LAMA - 1968 DIRE)

イタリアのピアニスト、DIREの4番のセカンドプレス・ジャケット。このアルバムは曲ごとにバンドが違っていてストリングスも入ったりするもクレジット無し。とあるサイトにクレジットが載ってました。「NAIMA」はピアノ・トリオでカヴァー。ドイツのベーシストでJ.F.かぁー。誰だろ。
CARSTEN MEINERT KVARTET / NAIMA (TO YOU FROM - 1968 SPECTATOR)

手書きのタイポもマイナー感のあるジャケット。本作のリーダーのCARSTEN MEINERTが設立したレーベルSPECTATORの第一弾作。後にDOLLOR BRANDの作品を出したり、本作にもキング牧師に捧げた曲があったりとブラック・スピリチュアリティー満載です。フラジオ混じりのプレイによる「NAIMA」。
EARL & CARL GRUBBS THE VISITORS / NAIMA (NEPTUNE - 1971 COBBLESTONE)

パーカッションを加えアップ、フロントはテーマのみ、バッキングも基本的にはリフで、ピアノがソロを中盤に挟むのみ。「NAIMA」という曲をアイコン化してる感じな訳ですが、これを聴いてどう思うかがクラブ・ジャズの分水嶺だったりするのかな。PHAROAHとNAIMA本人がクレジットを寄せています。
DOUG CARN / NAIMA (REVELATION - 1973 BLACK JAZZ)

ヴォーカル・カヴァー。JEAN CARNのヴォーカルにドラム、ベース、ピアノに、コーラスとシンセの多重録音。所謂スピリチュアルな歌詞が乗ってます。面白いなーと思うのは、敢えてフルート等を持ってこずにシンセを被せてるんですよね。別件で本盤のリードがRENE McCLEANというのもいいです。
CHARLIE MARIANO / NAIMA (REFLECTIONS - 1974 RCA)

EERO KOIVISTOINEN、OLLI AHVENLAHTI、PEKKA SARMANTO、SABU MARTINES等のフィンランドのジャズメンが揃ってます。ベースを始めリズム隊のサウンドが、この期の北欧ファンク的モコモコとしたファンキーさを上手く出してます。MARIANOのソプラノも流石です。
DEXTER GORDON & ORCHESTRA / NAIMA (MORE THAN YOU KNOW - 1975 STEEPLE CHASE)

ALLNA BOTCHINSKY、IDRESS SULIEMAN、PEDERSEN等、総勢20名以上のオーケストラによる作品。「NAIMA」は、ハープが前に出つつホルンやフルート、ストリングスによるオーケストラル・ジャズ。DEXTER GORDONよりも主役はアレンジのPALLE MIKKELBORG。
BARTZ - HENDERSON - CONNERS / NAIMA (DANCE OF MAGIC - 1975 COLUMBIA/ COBBLESTONE)

「NEMU JAZZ IN」シーリーズの第1弾。合歓ライヴ自体は7回目とか。GARY BARTSのアルトとEDIE HENDERSONのフリューゲルホーン、そしてREGGIE WORKMANのベースのアルコ。NORMAN CONNERSは添える程度に。日本盤のみ。他「DANCE OF MAGIC」、「REVELATION」収録です。
JAQUES & MICHELIN PELZER QUARTET / NAIMA (SONG FOR RENE - 1975 DUCHESNE)

こちらは既出の「NAIMA」です。ベルギーのサックス奏者JAQUES PELZERによるライヴ盤。ドラムを叩いてるのが娘のMICHELINEで、多分と言うかなんというか、あまり上手くないのでしょうね。その分、ビートがブレイクビーツ的なニュアンスになっていてそこが唯一無二という。クラシック。
GEORGE OTSUKA QUINTET / NAIMA (PHYSICAL STRACTURE - 1976 THREE BLIND MICE)

これも既出の「NAIMA」です。この「NAIMA」はパーカッションとシンセでの解釈、そしてサックスもドラミングも力強くていい。そして個人的にはこのベース・ラインの創造がより新鮮に聴かせてくれているのだと思います。多分。「NAIMA」史上最もアップなヴァージョン。間の作りもナイス。
LOU MCCONNELL / NAIMA (REACHING FOR IT - 1979 HIGH ENERGY)

ベルギーのサックス奏者がリーダーの作品で、バックが同じくベルギーのMICHEL HERRに米のWILBUR LITTLE、VINNIE JOHNSON。「GRONGO」と「O GRANDE AMOR」はエレピとフルート。で、この「NAIMA」。ピアノのイントロのパッセージからのワンホーン。ここに挙げた中でも3本の指に入るくらい好きです。
MASSIMO URBANI / NAIMA (DEDICATION TO A.A. & J.C - MAX’S MOOD - 1980 RED)

イタリアのアルト奏者MASSIMO URBANI。メンバーはLUIGI BONAFEDE、FURIO DI CASTRI、PAOLO PELLEGATTIと今も現役のイタリアン・ジャズメン達。LUIGI のピアノが瑞々しいです。URBANIのソロから始まり、FURIOのアルコ等、ラストのフリーキーに寄った盛り上がりもとてもいいです。
A TRIBUTE TO JOHN COLTRANE / NAIMA (BLUES FOR COLTRANE - 1987 IMPULSE)

企画盤的COLTRANEへのトリビュート・アルバム。「NAIMA」はPAHROAH SANDERS、McCOY TYNER、CECIL McBEE、ROY HAYNESによる演奏。まさに「NAIMA」オブ「NAIMA」なカヴァーです。やはり多くのアレンジがありますが、ここが中心真ん中って感じです。
PHAROHA SANDERS / NAIMA (AFRICA - 1987 TIMELESS)

PHAROHAのTIMELESSへのご挨拶的に、「YOU’VE GOT TO HAVE FREEDOM」や「ORIGIN」等を演っており、「NAIMA」のカヴァーも収録されています。ここで聴き比べるとするならば、冒頭で挙げたVILLAGE VANGUARDでのライヴ。ここでのプレイはなんとも優しいPHAROAHです。
4 HERO / NAIMA (V.A / THE GOOD GOOD - 2000 2000BLACK)

4 HERO / NAIMA (V.A / THE GOOD GOOD - 2000 2000BLACK) パーカッシヴなリズムに乗せてサックスを執るのはCHRIS BOWDEN。THE VISTORSの「NAIMA」をモチーフにしつつ4HEROらしいストリングも用いてカヴァー。「クラブ・ジャズとは?」という問いに対して、オリジナルと比較しての回答はコレだと思います。PLANET E盤の同コンピには未収録で残念。
HYPNOTIC / NAIMA (NAIMA EP - 2001 LAWS OF MOTION)

BEN MITCHELLとCHIRS FLEMINGのコンビによるHYPNOTICの「NAIMA」カヴァー。ヴォーカルや生楽器も加えつつのハウス・トラックでジャジー・ハウスとしてヒット。カップリングにはIAN O’BRIENのリミックス。NATHAN HAINESのフルートをフィーチャーしてよりディープに。
KINDRED SPIRITS ENSEMBLE / NAIMA (LOVE IS SUPREME EP - 2008 KINDRED SPIRITS)

オランダRUSH HOUR傘下のKINDRED SPIRITS。レーベル名義でWIBOUND BURKENSというBENJAMIN HERMAN等とやっていたピアニストをリーダーにユニットを結成。フュージョン的な前半から後半はバトゥカーダのリズムでラテン的な要素を加えてカヴァーしてます。



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▼編集後記

オルガンバー所属。常連。ヒロセダイスケ。


こんばんは。この度のテーマは「NAIMA」でした。このテーマで実は2年前くらいに書いてはいたんですけど、とにかく「NAIMA」のカヴァーが多すぎて途中でぽぽいのぽいと投げ出したんですけど、大きく書き直して枚数絞っt・・・絞ったつもりなんですけどね。今回はぶっちゃけると面白いクロスSSがあったのでオマージュ20%で位で書いてみました。DJ KRUTCH君にも薦めたんですけど多分まだ読んでないだろうな。ちぇ。余計なお世話でなかったことを祈って。関係ないアニメの話ですけど。まぁ、いえいえ。人生総じてそんなものかもしれませんよ。余計なお世話で繋ぐ輪です。和でもいいです。次回もそう遠く無いうちに宜しくお願い致します!。
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