2001.10
読書の秋、食欲の秋、芸術の秋。そして音楽を聴くのにも良い季節になりましたね。清々しい秋の朝に窓を開けて聴くのも良いし、虫の音が聞こえてきそうな秋の夜長でも良い、自分の心に残る名曲をじっくりと味わいたいところです。

今月はカヴァー特集。聴いたことのないアーティストのレコードを買うときに、自分の好きな曲のカヴァーが入っていたら買ってみる事がある。大好きな曲のカヴァーなら大抵ハズレがないし、その曲の新しい一面を発見することもあるから。クラブプレイしていても「これ誰のカヴァーですか?」と尋ねる(尋ねられる)ことも多いわけだし。そんなわけで、今月はみんなが知ってる有名曲のカヴァー・ヴァージョンの数々を御紹介します。

Toru WATANABE (pee-wee marquette)



HIT PARADE DES ENFANTS (MFP)

子供物のレコードは世界中から出されていて面白い物がたくさんありますが、やっぱり子供向けであったりするからフロアで使えるような曲って少ないですね。でも中にはいくつかあります。レアグルーヴなDO-RE-MI CHILDREN CHORUSの「SPOOKY」、完全な子供物じゃないですがBIRGIT LYSTAGERの「CHRISTINA(TRISTEZA)」等々。この『子供のヒットパレード』というタイトルのレコードにはニコ・ゴメスの「AQUARELA」のカヴァーが収録されてます。バックはオリジナルヴァージョンに忠実にカヴァーされてますが、オリジナルよりリズムも強いし、子供のコーラスもいいし、驚きの一曲です。



ED MACIEL / ESSA E A JOGADA (COPACABANA)

エジ・マシエルというブラジルのトロンボーン奏者の1973年のアルバム。ジャネット・ジャクソンの最近のシングルでサンプリングされてラジオ等で聴く機会も増えたアメリカの「VENTURA HIGHWAY」をポルトガル語でカヴァーしている。元々爽やかでアコースティックな曲調ですが、エジ・マシエルもアコースティック・ギターのみずみずしい響きを大切にカヴァーしている。メドレーが何曲か入っていて、その中のエンニオ・モリコーネ作「IL ETAIT UNE FOIS ... LA REVOLUTION」はまさにモリコーネ節と言える美しい旋律だけど、エッダ・デル・オルソのような美しいスキャットをフィーチャーしないところが面白い。他にフロア向けの曲も収録。



KEN & BEVERLY / WATCH WHAT HAPPEN (WORLD PACIFIC)

サックス奏者のKEN JENSENと女性ヴォーカリストのBEVERLY RYMANという男女2人組ユニット。アメリカでは良くありがちなグループですが内容はなかなかです。2曲を除いて全編カヴァーで、幅広い選曲をジャズアレンジにのせたポップスアルバムです。中でも冒頭のマルコス・ヴァーリ作「THE FACE I LOVE」が素晴らしい。ジョー・パスの暖かくもタイトなカッティング・ギターとKENの流れるようなサックスに乗ってのびのびと歌うBEVERLYの歌声が軽快かつエレガント。他にもビートルズ「ELEANOR RIGBY」なども予想に反してジャズなアレンジで格好いいです。



BIRGIT LYSTAGER / CHRISTINA (RCA)

もう2〜3年前の事になるけど、「TRISTEZA」のこんなに素晴らしいヴァージョンに出会った時の事ははっきりと覚えている。とてもショックだったのと同時に一瞬で幸福感で一杯になった。名前を読む事も出来無いようなデンマークの女性シンガーが1970年に「TRISTEZA」を取り上げていた事、その彼女の歌声があまりに可憐で印象的な事に加えて、拙くコーラスパートを歌う9人の子供達のあどけなさ、流れる様なピアノの音色の美しさ、優しく支えるように鳴り続けるウッドベースの響き、挙げていけばきりがない程にその素晴らしさ/幸福感が染み込んでくるような、それをショックと表現しても良いかすら分からないくらいに印象的だった1曲。後にも先にもこれ以上の出会いは無いかも知れないけど、この曲に針を落としている間はその針を途中で上げる事は無いだろうなと思えてしまう。



ZIMBO TRIO / TRISTEZA (RGE)

当時ブラジルには星の数ほどこのようなトリオグループが居たであろう。そんな中でもこのジンボ・トリオは比較的有名な方でキャリアも非常に長い。ここでの彼等はジャケットの趣のままにタキシードに蝶ネクタイがバッチリはまるエレガントでジェントルな演奏を繰り広げる。流麗なグランドピアノのソロで幕をあける「TRISTEZA」はまさに高級ホテルのラウンジのBGMと言ったシンプルだがゴージャスなプレイで、きっと正装に身を包んだ紳士・淑女を軽くスウィングさせて居たのだろうと思わせる。



ELZA SOARES / O MAXIMO EM SAMBA (ODEON)

1960〜70年代にかけて、彼女は一体何枚の作品を残しただろうか、たぶんそれを数えるのは無駄な労力だろうけど。ただ特に1960年代後半位の彼女はきっととても乗っていた時期で豪華なバックの面子からもそれを伺う事が出来る。この1967年のLPも多分に漏れずハリのある歌声と巧みなバッキングがマッチした佳作で、アルバム全編を通してその迫力がダイレクトに伝わってくるが、やはり白眉はゴージャスなホーンセクションを全面に押し出した「TRISTEZA」のカヴァー。まさにエルザ節全開の元気一杯の好演で、見事に彼女の色に染まっている。



BRUNO BATTISTI D'AMARIO, CHITARRA E ORCHESTRA / SAMBA PARA TI (VEDETTE)

完成度の高さ/美しさと言う点ではここで聴く事の出来る「TRISTEZA」の右に出る物は存在していないのかも知れない。このような大袈裟な物言いは、美しさの代名詞とでも言えそうな素晴らしいソリステ、エッダ・デル・オルソのスキャット・ヴォイスを惜し気無く、嫌味無くフィーチャーしているからこそ言えるのだと思う。イントロから鳴る美しいフルート、とろけるようなヴァイブの響き、輝かしいギターの音色に軽やかなリズムも、全てが同一線上でエッダのスキャットと溶け合う極上のアレンジメントは、楽曲の持つ美しいメロディーを活かそうとしているだけに過ぎない。そんなシンプルな方向性が産み落した快作。



O BECO / UMA NOITE NO "O BECO" (CONTINENTAL)

WOWOWで放送されたエリスのライヴが素晴らしかったように、生の熱気っていうのはライヴならではですね。これはブラジルのContinentalから出された熱いライヴアルバム。O BECO(Som BECO?)というグループはショーバンドっぽい雰囲気で、ジャケもホールで着席したスーツ姿の観客の前での演奏を写しています。アルバムの内容はそんな落ち着いた雰囲気とは裏腹にかなりの熱気を帯びてます。エリスもカヴァーした「SE VOCE PENSA」やMORAISの「CURTO DE VEU E GRINALDA」を女性ヴォーカリストHELEN BLANCOが熱くファンキーにカヴァー。またDJALMA DIASの歌うJORGE BENの「SALVE-SE QUEM PUDER」など、どの曲もジャズボサな演奏と合わせて最高です。



SAMMY DAVIS JR. / SOMETHING FOR EVERYONE (MOTOWN)

20人余りの美女に囲まれてニヤケ顔のサミー・デイヴィス・ジュニア。彼は1950年代から相当数のレコードを残していて、ロジャー・ニコルスの「DON'T TAKE YOUR TIME」なんかをカヴァーしたアルバムも良いんだけど、今回はレアグルーヴ色の強いモータウン盤を御紹介。まずブラッド・スウェット&ティアーズの「SPINNING WHEEL」のカヴァーはシャーリー・バッシーのヴァージョンのようにグルーヴィーな仕上がり。そしてソフトロック・グループによるカヴァーも多い「FOR ONCE IN MY LIFE」はモータウンらしくスティーヴィー・ワンダーの作風に近くフロア映え抜群です。メロウな女声コーラスがニューソウルを思わせる「YOU'VE MADE ME SO VERY HAPPY」も良い。



SUPER EROTICA / NA INTIMIDADE (NEW RECORDS)

禁断のエロチカ・グルーヴ from ブラジル。匿名性の高いグループ名(メンバー名のクレジットもちろん無し)にストイックなジャケット、選曲もカヴァー曲ばかり、という謎に包まれたレコード。音的にはフランスの音楽の影響が色濃く、セルジュ・ゲンズブール「ジュテーム」のように男女の艶かしい掛け合いや女性の吐息〜喘ぎ声の入った曲がたくさん入っている。中でもフロア向けなのはチャカチャス「JUNGLE FEVER」のカヴァーで、クールなブレイクビーツに絡み合う女性の喘ぎ声と僅かに香るブラジリアン・フレイヴァーが秀逸。シルヴィア「PILLOW TALK」のとろけそうなメロウソウルなカヴァーも良い。第二弾も出てるみたいです。




02,09,10: Toru WATANABE (pee-wee marquette)
04,05,06,07: Masao MARUYAMA (disques POP UP)
01,03,08: Morihiro TAKAKI (monophonic.lab)