2001.09
暑かった今年の夏も終わり。みなさんは今年の夏はどこでどんな思い出を作りましたか?ぼくはただただ暑かったという印象しか残ってないけれど、思い返せば海に行ったり山に行ったりクラブに行ったり、楽しかったけどあっという間の夏だったかも。

今月は「女性ヴォーカル」特集。9月に入ると日に日に過ごしやすくなってきますね。少し気持ちを落ち着かせて女性ヴォーカルのレコードでも聴いてみたくなります。夏の太陽の光で火照った身体を冷ますような女性ヴォーカルのセレクションをお楽しみください。

Toru WATANABE (pee-wee marquette)



HILDEGARD KNEF / LOVE FOR SALE (DECCA)

ヒルデガルド・クネフというドイツの女性ヴォーカリスト、実は女優として長いキャリアも持っている。本作は彼女の録音の中でも数少ない英語で歌っているアルバム(1969年)。人気のアルバム『HALT MICH FEST』に入っていた曲を2曲ほどリメイクしていて、特に「TOO BAD (NA UND...)」は前作のアップテンポの曲調からピッチ落とし目なエレガントなボッサビートに生まれ変わっている。彼女の男声と間違えそうな低音域のヴォーカルも魅力に思えてくる。アルバム『APPLUIS』収録の「COFFEE SONG」のカヴァーもダンスフロアの人気曲。



ERICA ~ CHIQUINHO ET LES SHOW ~ RIO / BRAZIL 77 (SONOPRESSE)

OS MARACATUのギタリスト、チッキーニョと人気のスパニッシュグループ「BRASIL AQUARIUS」でも歌ったエリカの出会いは素晴らしい作品を産み落した。全曲通好みのMPBカヴァーだが、ゆったりと始まる「DODO」からラストのトン・ゼー「HEIN」まで、全編通して爽やかなブラジリアン・サウンドで貫かれている。中でもヴァンドの名曲「NEGA DE OBALUAE」のスピード感溢れるカヴァーはチッキーニョのきらびやかなギターの音色にエリカの瑞々しい歌声がマッチした最高の出来。エリカは今も健在で、この当時素晴らしい作品群を残したヨーロッパからは遠くマイアミで唄っているとのこと。



JEANNIE TREVOR / POW! (MAINSTREAM)

いかにもアメリカっぽいイラストジャケット。アメリカの名門ジャズレーベルであるMAINSTREAMにはホントに多くの名盤が存在しますね。このJEANNIE TRVORという女性についてはあまり多くのことを知りませんが比較的有名なヴォーカリストの様です。そんなソウルフルな歌声の彼女がJAZZ, BLUESをタイトなバックを従えて伸びやかに歌っています。グレン・ミラーの名曲「MOONLIGHT SERENADE」はラテンぽさも漂わせながらタイトかつ軽快にスウィングするエレガントな一曲。他にもMILES DAVISのカバー「FOUR」やスピーディーな「I KNOW THAT YOU KNOW」もオススメ。お酒が美味しくなる一枚です。



MARIA GILIS / DIX MARTEUX NOIRS (TELERECORD)

マリアはフランスの女性ジャズヴォーカリスト。何枚かの作品を残してはいるもののクラシカルな歌唱法や楽曲自体も古めかしいためにさほど印象に残るような盤は少ないようだ。うつむき気味の横顔が印象的なこのEP盤でも同様にトラディショナルなナンバーを取り上げたりしているものの、「DIX MARTEUX NOIRS」はフレンチライブラリーMP2000にもトリオ作品を残しているMAURICE VANDERの華麗なピアノをフィーチャーしたモーダルなジャズヴォーカルの佳曲で、フランス語の響きや染み込むようなマリアの声色も素晴らしい。約2分半、ワイングラスが傾き続けるであろう大人の1曲。



EVA OLMEROVA / JAZZ FEELING (SUPRAPHON)

チェコスロバキアの音楽家というとドヴォルザークくらいしか知らなかったんですが、これはEVA OLMEROVAというチェコの女性ヴォーカリストの1969年作。A面とB面ではアレンジャーが違っていて、特にKEREL VELEBNYが手掛けたB面が良いです。"ジャズ・フィーリング"というタイトル通り、ジャズのスタンダードを中心としたセレクション。フルートやヴァイブなどをフィーチャーした幻想的な音像で、自分がまるで夢の中に居るような気分になる。中でも「LITTLE BOAT」は神秘的な美しさを湛えたボサノヴァ曲で、本作の最大の聴き所となっている。



ROMANTICI4 (RCA)

イタリアのライブラリー。5人のイタリアの作曲家の名前が並んでいますがその中心はARMAND TROVAIOLI。しかしこのアルバムの近似値はまさにピエロ・ピッチオーニ『スカッコ・アラ・レジーナ』の雰囲気。全体に散りばめられた妖艶で美しい女性スキャットはイ・カントーリ・モデルーニ?とも思わせる素晴らしさ。特に頭ひとつ出ている感じのB.PISANOの「E IL SOLE SCOTTA」はジャズなアレンジで魅力たっぷり。他にも美しい旋律にどっぷりと引き込まれてしまう数々の曲が並んでいます。が、まったくDJ向きではありません、残念ながら。でもモンドの魅力満載です。



DORIS MONTEIRO / MUDANDO DE CONVERSA (ODEON)

1950年代から活躍しているブラジルの女性ヴォーカリスト、ドリス・モンテイロ。元々はサンバ・カンソンの人らしいですが、1970年前後のアルバムにはホント傑作が多いです。1969年リリースの本作は、翌年のモノクロ顔ジャケ『DORIS MONTEIRO』と似たテイストの傑作。オープニング「GAROTO PAOSSANDO」からヴァイブやオルガンなどをフィーチャーした洒落た演奏で、フランスのヌーヴェルバーグのサントラ(『勝手にしやがれ』とか)のような印象も受ける。「NAO FALE SAMBA」はコロコロと転がるようなオルガンとフルートの音色がチャーミングな「CAFEZINHO」にも似たタイプの佳曲です。



MARIA ERIKSSON BAND / FIRST LIGHT (PUBRIC ROAD)

90年と比較的最近リリースされたジャズアルバム。時代的にも新しいためか、音像もくっきりとしたメリハリのある録音です。CARMEN LUNDYの「THE LAMP IS LOW」を思わせる「SONG WITHOUT AN END」は彼女の少し癖のある澄んだヴォーカルが魅力的なナンバー。このアルバムの一押しです。他にもタイトなアレンジを施された「LOVE FOR SALE」や数多くのカヴァーが存在する「FREEDOM JAZZ DANCE」をスピーディーにスキャットを交えてカバー。スウェーデンの比較的年代の新しいジャズアルバムには他にも素晴らしいものが結構あります。でもアナログ切ってる枚数が少ないため見つかりにくいのが残念です。



CELESTE / LACO DE COBRA (EMI/ODEON)

『CINCO E TRISTE DA MINHA』というアルバムが人気のセレステの1979年作。このアルバムも選曲が良い。特にシコ・ブアルキ作「HOMENAGEM AO MALANDRO」は、空を舞うようなエレピの音色と終盤の彼女のスキャットが気持ち良い。ドリス・モンテイロの青ジャケ『AGORA』収録の「MAITA」に似たテイストかな。そしてホーザ・パッソスのデビュー盤『RECRIACAO』に入っていた曲を2曲カヴァーしている。特に「SAUDADE DA BAHIA」はオリジナルよりも洗練されたアレンジが彼女の透き通るような歌声に合っている。ちなみにセレステの本作とホーザのファーストは共にアレンジがジェラルド・ヴェスパール。



ZELIA BARBOSA / SERTAO E FAVELAS (LE CHANT DU MONDE)

LE CHANT DU MONDEというレーベルは、その名の通り「世界」の音楽をリリースしていて、これはそのブラジル編の1枚。1968年にパリで録音された盤で、シコ・ブアルキやエドゥ・ロボ、ゼー・ケティらのカヴァーをシンプルなトリオ編成をバックにゼリアという女性ヴォーカリストが歌うという企画。社会的なテーマのためか全体の雰囲気は少し重め、だが大人の香りが漂うゼリアの唄声にジャジーなトリオ演奏はとても相性が良く、聴き応えがある。曲順を入れ替えたアメリカ盤も存在していて、そちらのダークな雰囲気のジャケットの方が内容とはマッチしているように思える。




01,05,07,09: Toru WATANABE (pee-wee marquette)
02,04,10: Masao MARUYAMA (disques POP UP)
03,06,08: Morihiro TAKAKI (monophonic.lab)