2001.08
いやー、毎日暑いですね。特に今年は例年より2割増しで暑い気がしてますけど、皆さんいかがお過ごしですか?夏バテとかしてないですか?先月のプロントは「夏」特集でしたが、やはり夏に合う音楽といえばボッサやサンバといったブラジル音楽。最近は春から冬まで一年中ブラジリアンな気分と言えなくもないですが、やはり夏に聴くブラジル物は格別です。

ということで今月は「ブラジル」特集。プロントでは今までヨーロッパ産ブラジリアンをたくさん紹介してきましたが、ブラジル人によるブラジリアンって意外と紹介してなかったなーと。そこで今回はブラジル本国で制作されたモノを中心に、ブラジル人が国外に渡って制作した物も含めてご紹介します。

Toru WATANABE (pee-wee marquette)



SONIA ROSA / A BOSSA ROSA DE SONIA (CONTINENTAL)

透明感と存在感。共存し難い2つの要素を合わせ持つソニアの希有な唄声はいかなるバッキングのスタイルであろうと変わる事無く魅力を放っている。母国語でボサノヴァに取り組んだこのLPでは、癖のないシンプルなバックの演奏もあってか、特に彼女の唄声の良さが際立つ。彼女自身のオリジナルも6曲あり、そのどれもが楽曲としての完成度も高く見事としか言い様が無い。日本語の曲を多く歌っているせいか彼女の母国語での唄声は新鮮に聴こえる。



DILA / DILA (CID)

ブラジルの女性ヴォーカリスト、DILAによる素晴らしいMPB。彼女の詳細についてはほとんど知りませんが、このアルバムを聴いてもらえればその魅力溢れる歌声と楽曲に充分満足してもらえると思います。一曲一曲ブラジル音楽の魅力が詰まっています。程良く踊れる「MADALENA」の心地良さ、解放されるようなポジティヴなサンバ・チューン「FESTA PARA TEM OUVIDOS」、そして躍動感溢れるグルーヴの「COMO E QUE E BICHO?」等アルバム中捨て曲なし。バックを飾るピアノの演奏もまた素晴らしい。



VANUSA / 1971 (RCA)

イヴァン・リンスは僕の大好きなブラジルのソングライター。最近出たハウスのトラックでもろサンプリングされた「ESSA MARE」のような中期のマイルドなテイストも良いけれど、1970年代初期にFORMAレーベルに残した若く荒削りの曲にも魅力を感じてしまう。本作はヴァニューサというブラジルの女性シンガーの1971年作で、イヴァン・リンス作の「O DIA E A HORA」がとにかく素晴らしい。イヴァン・リンス節とも言える胸にグサッと突き刺さるような切ないメロディーとファンキーなグルーヴが一体化した名曲。彼女のシャウトはまるでイヴァン・リンスが乗り移ったかのようにエモーショナル。



MARIO CASTRO-NEVES / THE LATIN BAND OF (CTL)

サンバ株式会社名義の素晴らしいレコードをブラジルに残した後、マリオはヨーロッパ各地を転々とし数枚の作品を手掛けた。そして1977年にはカナダ/トロントに渡り、6曲のオリジナルとバリー・マニロウ等のカヴァーを含むこの傑作を残した。同時期のセルメンのスタイルを意識した二人の可憐な女性ヴォーカル、突き抜けたメロウな音色を放つ彼のエレピに加えて、地元のプレイヤー達の手腕も申し分なく、そのアレンジも洗練の一言に尽きる。



THE SILVERY BOYS / THE SILVERY BOYS (RGE)

ブラジルの若者5人組、THE SILVERY BOYSによるイェイェ物。グループ名にも現れていますが、ブラジル物というよりもアメリカのビーチボーイズに憧れたような楽曲が並びます。ブラジル本国の音楽よりもHIPHOPやR&Bを好んで聴いている現在のブラジルの若者と同様、アメリカに対する憧れがあったのでしょうか?少し商業的な匂いもしますが、内容は決して捨てた物ではなく、特にハンドクラップも入るパーティー・トラック「VOCE BALANCA MEU CORACAO」が最高!CYRO AGUIERの「RIO DO MARACATU」等と繋げたいイェイェチューン。



ELY ARCOVERDE / REGRESSO (COPACABANA)

ブラジルのオルガン奏者ELY ARCOVERDEの1972年作。彼の1960年代のカルテット(RGE盤)はクールなジャズボッサでしたが、本作はソウル周辺の影響も受けたヴォーカル入り/フロア対応の名盤。「FATAL」はゆるやかにシェイクする16ビートのリズムと泡のように弾けるハモンド・オルガンの音色がなんとも涼しげです。オス・トレス・ブラジレイロスのアルバム『真夏の夜のスキャット』に収められていた「真夜中のリンダ〜EM NOITE LINDA」のセルフ・カヴァーも秀逸。こんな曲で身体を揺らしてるとホント気持ちいい。僕のこの夏一番の愛聴盤かな。



BANZO TRIO / GARATO MODERNA,GENTE etc (COPACABANA)

同じレーベルに素晴らしいジャズボッサのメドレーソングを残している女性ヴォーカリスト、LITAのバックを努めていたBANZO TRIOのシングル。おそらくLITAのシングルを収録したときに同時に録音されたものと思われます。彼らの演奏の素晴らしさはLITAのシングルで証明済みですが、このシングルでも洗練さと荒々しさを兼ね備えた熱演を繰り広げています。特にピアノの荒々しくも美しい旋律が印象的なマルコス・ヴァーリ作「GENTE」やクラシカルなピアノの響きのイントロから爆発するようなドラムが最高な「GAROTA MODERNA」等、4曲全てが魅力的。



ELZA SOARES / ELZA PEDE PASSAGEM (ODEON)

アフロヘアーにフレアパンツのエルザ・ソアレス。スライ&ファミリー・ストーン『フレッシュ』みたいなジャケだなぁ。彼女は長いキャリアを持つカントーラ(ブラジル女性歌手)で、ネイティヴなサンバ物の録音も多く、クラブプレイにはやや不向きなトラックもありますが、これは1972年リリースで音自体適度に洗練されてて適度にグルーヴィー。ヴォーカルの豪快なダミ声度(?)もいつもよりやや低め。そして何よりアルバムを通して聴ける名曲揃いで、ほぼ全曲クラブプレイ可という美味しいアルバム。



JARDIN EXOTIQUE / JARDIN EXOTIQUE (AAAA)

JARDIN EXOTIQUEはブラジルからフランスに渡ったデュオ、テカ&リカルドが1980年代前半に使った名前で、もちろん彼等はここでも以前と変わらずブラジル音楽に取り組んでいる。微妙な年代だが伸びやなテカの唄声やリカルドの瑞々しいギターの音色は全く失われておらず、むしろその表現力は格段に向上している。BARNEY WILENも名を連ねる8分にも及ぶタイトル曲や優しいメロディーの「TUDO ISSO」等、好曲が並ぶが、マイナーレーベルからのリリースのためあまり知られる機会が無かった。



SILVIA MARIA / TEREZINHA, ANDARUE (PHILIPS)

アルバム『CORAGEN』が人気なシルヴィア・マリアのシングル・オンリー。『CORAGEN』収録曲はサウダーヂという言葉がぴたりと当てはまるアルバムですが、このシングルは『CORAGEN』発売の10年前ということもあってか、若さに満ちた躍動感溢れる内容。特にB面の「ANDRAUE」が跳ねるリズムと高揚感を引き出すメロディーが素晴らしいまさに踊れる名曲。その楽曲と歌声はクラウデッチ・ソアレスに近い物があります。A面のしっとりとしたボサ・チューン「TEREZINHA」も心地よい風を吹き込むような一曲。




03,06,08: Toru WATANABE (pee-wee marquette)
01,04,09: Masao MARUYAMA (disques POP UP)
02,05,07,10: Morihiro TAKAKI (monophonic.lab)